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D散村の自然環境 今昔 2014.5.20
(1)水田の区画が小さかった頃

変形していた水田とあぜ道

今から70年くらい前の砺波平野の田園風景は、今とずいぶん違った風景でした。水田を灌漑するために引かれている用水は、勾配に沿って曲がりくねって流れ下る自然があふれる小川でした。さらに、ほとんどの水田も一枚の面積が小さく、形も様々でした。耕地整理があまり進んでいなかったのです。

 しかし、砺波平野は庄川や小矢部川の豊かな流れに恵まれて、この二つの水系から取り入れられた水が大小の用水路へと引かれていました。この流れは、水田に水を引いて潤す灌漑用水ばかりではなく、散村地帯の豊かな自然を育み、人々の暮らしを支えてきました。

 野尻川、宮川、千保川などの大きな川から分かれた用水路は、さらに分かれて川幅をせばめ、やがて農家の軒先の小川となっていきました。

 この用水路も、1955年(昭和30年)頃までは、いずれも川幅がゆったりとした素掘りの川で、川底は、瓦礫が主でした。小さな用水路では、わずかに泥の堆積が見られました。川岸は石積みであったり土の土手であったりしたので、雑草や小灌木が多く生えていました。川沿いのところどころには、江ざらい時の土砂が盛られた畔(クロ)と呼ばれる小高いところがあり、そこにはスギやタケ、エノキ、エゴノキ、ウツギなどの小灌木が繁っていました。小さい川沿いには、ハンノキが見られるなど、屋敷林とともに散村の緑の景観を構成していました。

(2)小川や畔の動植物

 畔(クロ)には、ウサギやイタチなども棲んでいて、キジや小鳥の巣作りの場所にもなっていました。川には、コイ、フナ、ウグイ、アユ、ナマズ、ウナギ、アカザなど数多くの魚や、時には、サケ、マスなどの姿を見ることもありました。川は子どもたちの大切な遊び場所でした。川の流れを選んで泳ぎ場や魚取り場を定めて遊んだり、岸辺のグミ、イチゴ、クワの実などを摘んで食べたりするのも子どもたちの楽しみの一つになっていました。

 また、家の周りの小川には、フナ、ドジョウ、メダカ、サワガニ、ゴリなどの小魚や、カラスガイ、シジミ、タニシなどもいました。

 砺波平野を流れる川水は、用水として水田の灌漑用に用いられましたが、飲み水や風呂水、洗濯水などの生活用水としても利用されました。農家の屋敷には、用水を取り入れて小さな池がつくられ、種籾を浸したり生活用具の洗い場として利用したりしていました。水は使うと汚れますが、用水となっている小川には水生昆虫や多くの魚が棲んでいて自浄作用に優れ、しかも、家々が離れて建っていたので、それぞれの家ではきれいな水を取り入れて利用することができたのです。

 しかし、上流で伝染病が発生すると、河川を生活用水にしているのは危険です。このため、大正の終わり頃に扇状地の中心部にある出町(現在の砺波市の中心部)に上水道ができました。第二次世界大戦後には、農薬散布による河川の汚染が進んだために、散村地帯にも上水道の敷設が急務となりました。砺波市では、1954(昭和29)年頃から上水道の拡張工事が進められましたが、砺波平野にある各市町村においてもしだいに上水道が設置されるようになりました。

 このように平野を網の目のように流れる豊かできれいな小川は、ほかにもいろいろと利用されてきました。川船を使った米の運搬、水の流れる力を利用した大型水車や螺旋水車などです。特に螺旋水車は、砺波地方から広く全国的に普及し、石油発動機やモーターが開発されるまで農家の動力源として稲の脱穀や籾摺り、精米、製粉、製材などに利用されました。

(3)水辺環境と変化

 砺波平野に広がる用水の様子を大きく様変わりさせたのは1951(昭和26)年頃から始まった幹線用水路の改修事業と、その後の圃場整備事業でした。

 幹線用水路の改修では、水路の三方がコンクリート化されて地下への漏水を止めるとともに川の流れがよくなりました。また、堤防が補強されて水害も少なくなりました。川幅を狭くし直線化することによって新しく耕地も生み出されました。

 ところがその反面、用水のコンクリート化は、これまで用水に棲んでいた多くの水生動物の棲み家を奪ってしまいました。また、高い落差のある堰がいくつもできたことによって川に棲む魚が上流にさかのぼることもできなくなり、いつしか用水から魚の姿が消えてしまいました。さらに、メダカやホタルを見かけることも少なくなりました。

 地下水利用も進み、1988(平成10)年には、砺波市東保地内に北陸コカコーラボトリング砺波工場が建設され、庄川の伏流水が清涼飲料水としても利用されるようになりました。このことは、水の活用の幅を広げ地域の活性化に寄与する一方で、地下水の低下という新たな問題も引き起こしています。


【砺波市立砺波散村地域研究所『砺波平野の散村「改訂版」』2001年より抜粋】

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