このように大切に育てられてきた屋敷林の将来に影が見え始めるのは、明治後期からである。明治維新以降、明治政府は食料増産に努め、農業技術の進歩には目を見張るものがあった。千歯こきから動力脱穀機へ、牛馬の耕作から耕耘機へと大転換を遂げた。明治19年には虫害予防規制、33年には富山県農会模範耕地整理規定、34年には短冊型苗代規定などを矢継ぎ早に公布し、しかも強制的にそれまでの農業のやり方を改めさせた。しかし当時悪天候が続き、冷害などもあって、増産目標が達成できない年が続いた。そこで屋敷林や田圃の畔(くろ)にある多くの樹木が増産を妨げていると考えた県は明治26年ごろ、陰樹伐採を奨励し始めた。ところがこの地方の人々の屋敷林に対する思いは強く、なかなか伐採は進まなかった。そこで明治36年12月29日、今度は県報で『富山県耕地障害木取締規制』を布達した。規制にそむいた場合は罰金刑を伴うもので、この規制により、平野の用水沿いにあった畔(くろ)に自然に生えていたハンノキ類は以後1年間で約100万本が伐採されたという。
さらに、屋敷林に包まれた散村景観を一変させてしまうほどの伐採は第二次世界大戦終了間際の昭和18年のことであった。前年の昭和17年3月20日「カイニョ(屋敷林)伐採による軍需要材供出運動についての知事示達」が出されて各町村で対策が講じられたが、伐採が進まず、17年11月19日の「屋敷林供木運動促進についての知事示達」による監励が出され、18年春から伐採が本格化し、直径1尺5寸以上のスギが対象となり、時にはそれ以下の木も伐られた。19年、20年は戦争が激化し木材が不足するにつれて寺院の境内林までが供出の対象となり、大木のほとんどが伐採されて散村の景観が一変した。残されたのは神社の社叢と井波などの強風地帯の屋敷林の一部のみであった。
そのほとんどの家では伐採した後に杉の稚苗を植えた。このスギが現在屋敷林の中心として成長している。
昭和23,4年頃、の農村生活改善運動の中でも屋敷林の伐採が進んだ。家に陽射しを入れ、台所を明るくするためであった。昭和25年のジェーン台風、34年の伊勢湾台風、36年の第二室戸台風はいずれも砺波平野を吹き荒れ、各地で屋敷林のスギが倒木し、多くの被害が発生した。この倒木を利用して家を改築した例も多かった。
昭和30年代中頃から40年代にかけて農家の改築が相次いだが、これを機に屋敷林を伐採する家もあった。
農家の燃料は屋敷林の小枝やスギの落葉からガス・石油に代わり、アルミサッシが普及し、外壁は風雨に強いトタンに代わり、屋敷林への依存は薄れていった。
昭和37年に始まる散村地帯の圃場整備事業は散村の景観を大きく変えた。これを機に平野を流れる河はコンクリートのU字溝に変わり、周囲の水田が休耕されるなど、屋敷林の生育環境が変化し、圃場整備後の散村ではスギの衰退が目立った。前庭の柿の木が切られ、庭木と家を配した庭づくりが行われ、モータリゼーションに伴って車庫が建てられたりした。
住む人にとって、屋敷林の効用は薄れたと認識されはじめ、落葉の処理や枝打ちに手間がかかることから伐採する農家が目立つようになった。なかには杉の枯死が伐採の動機となることもあった。
年々減少する屋敷林が注目され、砺波散村屋敷林研究会等によって屋敷林の実態調査や住民の意識調査が実施されるようになったのは、昭和50年頃からである。実態調査からは、屋敷林の自然の豊かさや屋敷林を育て共に生活した先人の知恵が随所に認識された。意識調査からは、多くの人々が今なお屋敷林の直接的効用を認め、さらに心の豊かさや緑の環境としての期待が屋敷林に寄せられていることが把握された。また、昭和62年9月には砺波散村地域研究所の主催で「いま、屋敷林は」と題するシンポジュームを開催し、居住者と共に屋敷林の保全育成の道を探った。
しかしながら、屋敷林の維持は、住む人の努力のみに求めることに限界があり、その後も減少の一途をたどった。
平成2年、富山県農地林務部の行った散村の屋敷林調査とそれに基づく平成4年の「富山の散居の屋敷林」の刊行は、行政の屋敷林育成への取り組みとして画期的であり、屋敷林にはじめて社会的認識を与えたことは重要であった。
【砺波散村地域研究所 『砺波平野の屋敷林』平成8年より抜粋】
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