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3(1)砺波平野の様々な屋敷林 2014.10.10
(1)ー@従来型の屋敷林「森のような屋敷林」

根井宅の屋敷林

森のような屋敷林
根井仁一宅 城端町西明

 根井宅のある西明地区は南砺の山麓に形成された小扇状地上にあり、山地斜面を駆け下りる南南東の強風が卓越する地域である。各戸は卓越風の方向に厚い防風林を維持している。そのなかでも根井宅は屋敷の広さと樹木の多いことで抜き出ている。

 家の向きは、この地域では北および西向きが一般的である。根井宅も正面は北向きであるが、日常は道路よりの西向きの玄関を利用している。屋敷の全周囲におもにスギの垣を巡らし、そのなかに、スギ、ケヤキ、アスナロ、ハンノキなどの郷土樹種を植え、スダジイ、シラカン、コウヨウザン、イチョウ、カエデ、サクラなどの庭木、クルミ、カキ、ナシ、ウメ、ユズなど大きな果樹が垣根に沿って植えてある。その数は高木94本、うち74本がスギである。離れて眺めると屋敷林というより森と表現した方が当を得ている。

根井家はいわゆる旧家で、戦時には率先して共木を行ったことから、大半はその後に植えられたものである。少し残されたもののなかのケヤキやハンノキなど、成長の早い木が、まわりの木を圧倒して立っている。ハンノキは以前、この地域で稲架木(はさぎ)として植えられていたが、圃場整備後全くその姿を消した。ハンノキの成長の早いことを「ハルノクの如し」といったり、火葬の木と呼ばれたりして親しまれたものである。

 納屋の裏手にモウソウチクの林がある。またギボウシやウド、ミョウガ、ウワバミソウ、オウレン、カリソウなどの山野草が除草時にものこされて、意識的に配置されたように繁茂している。イチ、アジサイ、ツツジ、ヒイラギ、サザンカ、サルスベリなどたくさんの花木が座敷から眺められる東の一角に植えられているが、整姿の手だてなどはなされていない。

 木が多くても屋敷の内はかなり明るい。それは母屋のまわりから、樹木を話してあることと、スギなどは山の木を育てるように枝を落してあり、除草がゆきとどいているからである。根井家が屋敷林を育んでいるその想いの中に、意識的にあるいは無意識に、山づくりの感性が息づいているように思える。

(1)ーA従来型の屋敷林「井波風を防ぐスギの屋敷林」

井波風を防ぐスギの屋敷林
藤永外之宅 井波町山斐

 山斐地区は庄川扇状地の扇頂部にあって、春先や台風の通過後、局地風「井波風」と呼ばれる強い南風の吹く地域である。藤永家はこの地域の旧家で、廻りに石垣をめぐらして南と西側にスギの巨木があった。石垣の上にはラカンマキやモッコク、ナンテン、ツツジなどの低木が植え込まれている。東側に多門があり、その門をくぐって玄関に入ることになる。多門の内側にはアンズの大木があり、スギがほとんどを占める当家の屋敷林の中で際だっている。東の前庭はサザンカとキャラボク、南と西側はほとんどスギ、北側にサクラやツバキ、キンモクセイなどの花木、ユズリハやタイサンボクなどの庭木を植えている。

 1984年の調査では全樹木99本、そのうちスギ62本で、直径50センチ以上の大木は18本あった。そおほかにカシ3本、ヒバ1本、ケヤキ2本、アテ1本、アンズ1本などの高木があった。スギの方位分布は南側と西側で特に南側に厚い。これは「井波風」に対処するためと考えられ、石垣も南側は2メートルと、他の3面の1・5メートルに比べて高くなっている。現在あるものの外に大きいものでは直径150センチや140センチもある切り株が多数ある。これは戦時中供出されたものである。

 むかしからスギ中心の屋敷林なので、春のフェーン風や台風の後などは大変な落葉の量だった。ところが近所の出入りの人たちがそれらを全部掃き集めて袋に詰めて各自持って帰ってくれたので、主人は落葉の処理などをしたことがなかったという。

 当家では戦時中の供木以外、木は伐ったことがないという。ところが平成6年4月12日の大風で南側のスギの大木2本が倒れかかった。その木の搬出のため南側の11本のスギを切った。その結果、南側の巨木は全て姿を消した。大風で木が倒れたことは初めてという。

(1)ーB従来型の屋敷林「ケヤキの老木が残る屋敷林」

ケヤキの老木が残る屋敷林
芳里 三正宅 砺波市堀内

 砺波市堀内は庄川扇状地扇央部に位置する。芳里家は現当主三正氏で21代目を数える堀内集落の旧家である。

 前庭の左右にケヤキの大木がある。目回り3メートル以上のもので、遠くからも望まれ、当家のシンボル的存在ともなっている。これは平成6年から市の指定保存樹となっている。

 家はこの地方に一般的にみられる東向きで、明治14年に建てられたというアヅマ建ちとしてはごく初期に属するもので、その点からも貴重な家である。このケヤキはこの家が建てられた頃植えられたものであろうとのこと。建物の下にしっかり根を張り、湿気を吸い取ってくれるので家は乾燥しているという。

 屋敷の廻りを低い石垣が取り囲み、その内側には盛り土をしてスギをはじめ、ヤブツバキ、サザンカ、アセビなどの低木が植えられている。西側には池が掘られ、石塔が置かれ、庭園となっている。

 1983年の調査では植栽されている樹木の主体は45種類、延べ本数にして234本であった。樹種の主体は西側のスギであり、植栽率では最高の26・1パーセントを占め、砺波散居村の屋敷林の特徴を示している。しかし大きな屋敷にしてはスギの大木が少ない。切り株が西側に若干残っているのは戦時中供出した跡である。

 西側から北側にあっけてモウソウチク、カラタケなどのタケ類が植えられている。現在は竹薮的な景観はみられないが、以前は竹薮としての機能をはたしていたと考えられる。東側にカキ、イチジク、ビワ、アンズ、ウメなどの果樹が植えられている。

 現在、北側に大きな農機具格納庫が建てられ、そこにあったスギや果樹がなくなった。また、南の庭園にあった当家で一番大きかったスギとアカマツに虫が入って枯れ伐採され、南側からの様子は写真のように変わってしまった。

 当家のケヤキは、春一斉に眼を吹き、秋には紅葉して屋敷林の中で見事な美しさを醸し出す非常に重要な樹種であるが、晩秋い入り落葉し出すと、そのおびただしい量は家人に相当な労働を強いることになる。朝・昼・夕と落葉を3回掃き寄せて田圃へ運んで焼却するのが当家の老夫婦の日課となるのである。


【砺波散村地域研究所 『砺波平野の屋敷林』平成8年より抜粋】

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