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8これからの屋敷林 2014.10.10
(1)屋敷林にふさわしい樹種

安定したスギ中心の屋敷林

 これからの屋敷林をつくるのにふさわしい樹種を樹木の一般的な特性をふまえて整理すると次の通りである。

 植える面積、方位、位置、土の状態、樹木の組み合わせ等を考えながら参考にしていただきたい。

◇高木でも20メートル以上に成長する樹木
 ケヤキ、ユリノキ、サクラ、アカマツ、クロマツ、スギ、サワラ、ヒノキ、アスナロ、スダジイ、ハルニレ、クスノキ、モミジバフウ、トチノキ、トウヒ、エノキ、モミ、ハンノキ、イチョウ

◇10メートル前後に生長する樹木で、樹冠丈を3〜4メートル程度にまとめうる中木型樹種
 ナナカマド、サルスベリ、カエデ、ネズミモチ、ヤブツバキ、マサキ、ナンキンハゼ、ラカンマキ、ウラジロガシ、ウバメカシ、ナンテン、モクレン、マンサク、アジサイ、キョウチクトウ、マユミ、ビワ、ウメ、エニシダ、ハヤズオウ、ユズリハ、アカメガシク、ツゲ、ウメモドキ、マメヅゲ、イヌツゲ、ヒイラギ、ムクゲ、フヨウ、ヒサカキ、チヤノキ、サザンカ、ジンチョウゲ、ヤマボウシ、ハナミズキ、アオキ、サンシュウ、ザクロ、ヤツデ、カクレミノ、ハクウンボク、ヒイラギ、レンギョウ、トネリコ、クチナシ、サンゴジュ、ツツジ、エンジュ、モクゲンジ、エゴノキ、イトヒバ

◇小低木で特に地床を安定させ、集団で成立しやすい樹種
 ヤブコウジ、カラタチバナ、マンリョウ、センリョウ、ササ類

◇芳香を発する花木や果実のなる木樹で、昆虫や小鳥を呼び寄せる樹種
 カキ、ウメ、クリ、バラ、グミ、アンズ、スモモ、ザクロ、シナノキ、ヒサカキ、ジンチョウゲ、ヒイラギ、ヒイラギモクセイ、キンモクセイ、クチナシ、ハゼノキ、イイギリ、ネズミモチ、イチジク、ウメモドキ、ビワ、ピラカンサス、ツバキ

◇防風の役割を担う深根性の樹木。根が太くあまり細根を分岐させない樹木の根は、深く潜り込む性質を持ち、移植を嫌う傾向があり、高木に育つものが多い。
 スギ、アカマツ、クロマツ、イチョウ、マロニエ、ケヤキ

◇湿潤な土地を好むもの
 ヤナギ、クルミ、ハルニレ、ヤチダモ、ハンノキ

◇マメ科植物に代表されるように根粒菌と共生することによって自ら大気中の窒素ガスを還元固定することができることから、貧栄養の土壌でもかまわない樹種
 アカシカ、ネムノキ、エンジュ

◇強い直射日光がさえぎられても育つ、半陰樹(中陽樹)
(ア)樹木が若い頃には直射日光を好まず樹齢が増すごとに光を求める樹種
 ヒノキ、コウヤマキ、アラカシ、クスノキ、シュロウ、シロダモ
(イ)一生を通じて光にそれほど恵まれなくとも育つ樹種
ネズミモチ、サワラ、ウバメガシ、エノキ、コブシ、タブノキ、アジサイ、ヒサカキ、カクレミノ

◇直射日光を嫌う陰樹。森の下層木として生育する樹種で、背丈の低いものが多い。
 アスナロ、ヤンリョウ、ヒイラギナンテン、シラカシ、ヤブツバキ、モチノキ、マサキ、イチイ、キャラボク、センリョウ、ナンテン、モクレン、マンサク、ユズリハ、タラヨウ、アオキ、ジンチョウゲ、アセビ、ヤブコウジ、カラタチバナ

(2)積極的な屋敷づくりのために

 何よりもまず屋敷内(敷地)木を植え、全体として樹木の生息成立地をつくり、広めることが基本である。それぞれの屋敷林面積に見合った樹種や本数、木の性質をふまえた配置を考えること。

 又、樹種選定には、古くからこの地域に育ってきた樹木とその組み合わせを参考にすること。それをおぎなう形で、花や実のつく木や、庭園樹等を加え、夢と楽しみのある屋敷林につなげることである。

(3)「学び」につなぐ

◇庭
 空を仰ぐスギやケヤキの大木、横に伸びる生け垣や石垣、その根元にささやかな庭石がそえられる。そこへシュンランやシャガをあしらう、苔が空地を覆う。冬を迎えて、枝作りや雪囲いもしない。
日ざしが大木の陰を雪面に映し出す。時には鳥の影が飛び交う。春にはいささかのスンバを拾う。朝、日の出前、すべての木々は露を葉末に結ぶ。木々は人間の枝や美意識を越えて、上に伸び、枝をかざす。その木々の生きざまに、神を想い、仏の知恵に頭をさげる。そのような畏敬の念を抱かせるような庭が他にあろうか。スンバが落ちる。年老いてそれを一枝拾い上げる。「葉落帰根」という古い言葉を思い出し、人生と重ねながら、また枝を拾う。死を受け入ねばと心に言い聞かせる。庭は思索の場となる。

◇農の知恵
 種子をおろす・水をまく・植える。根をほる・葉をつむ・実をとる。木を縛る・切る・刃物を研ぐ。生ゴミを積み土に返す・枝を燃やし灰を作る、そして畑にほどこす。流水をみちびく・とめる・隣家の池を気づかう。春、ムシロのうえに大根をきって「干し大根」をつくる。ナスや芋の子、梅干しなど保存野菜の果樹が強い日差しで、あるときは日陰を選びつくられる。虫干しには木立に縄をはって着物をつるす。日常の基本的な生業が自然と深くかかわっていることに気づく。

◇居間と四季
 春一番が吹くと大木が揺れ、さわさわ、ひゅうひゅうと鳴る。やがて萌黄色の目をふく、土の中から、いっせいにさまざまな野草が立ち上がる。蝉が鳴くころ、竹の葉がかすかに揺れ、人は戸をあけはなって昼寝をする。夜、冷気がカイニョをつつむ。稲穂が実り、欅が色づき、一葉が落ちる。木枯らしが来るころ、すべての葉が落ちて、木々の枝は雪を抱く。小屋から丸太を出して雪囲いをする。自然を居間にいながら満喫して、家族のみんながまた一つ歳を重ねる。

◇3世代家族の小空間
 朝、働き手が一日の伝言をして家をでる。老婆は孫を保育所に送り、回覧板を隣へもって行き、世話話と空模様を案じあって時間を過ごす。畑自慢を聞いて、わが家に帰り試みる。米や野菜は自前で賄う。雪解けを待って種を蒔く、前の年に蒔く物もある。肥やし、農薬、器具機械の整備運転、作付け、答理、収穫、保存など一年を通して、農にやることが無限にある。孫を迎えに行き、一緒に小枝を拾い、ナスビをもぎ取り夕餉の支度をする。さまざまな知恵が受け継がれ、為すべきことを家族が分かち合って生きている。

◇子どもの遊び
 保育所から帰ると、約束をしあって、2,3人が家に遊びに来る。ツバキの花びらやヤツデの葉を並べてママゴトに興ずる。クモを振り回してオニヤンマを追い、スギにとまったセミをねらう。とらえることは至難である。ウドの葉に集まるアマガエルを捕まえ、水を入れた洗面器にいれ、掻き混ぜ泳がせて競う。アマガエルが目を回す。田圃の用水に木の葉を流して一緒に走る。鎌をとりだして、伸びたばかりのニガタケを伐り、小さな七夕をつくる。カキの木に添えられた竹竿を手にして実を落とす。ほとんどが割れる。それでも土をふいて嚙る。ヤマモミジの落ち葉を拾って、広告紙の裏に貼り絵をする。青、黄、赤、そして灰色の葉が並ぶ。『はっ葉のフレディ』(アメリカの哲学者レオ・バスカーリアが書いた本)が出来上がる。スギ木立の中で雪だるまを作る。スギッ葉をのせると河童になる。体が冷え込んでも外ではしゃいでいる。こうしてそれぞれの原風景ができあがる。

◇セミの墓
 夏、子どもたちが朝起き会から帰って蝉の屍を見つける。アリが襲っていることを告げる。可哀想だねというので、シャベルで木のもとへ穴を掘って埋めてやった。木の枝を拾ってきて「セミのはか」とかいて立てた。そののちも、屋敷の中で、カラスやモグラ、それに前の道ではイヌが無残にもひかれ、タヌキも事故死する。そのたびに子どもたちは屍を新聞紙にくるんで土の中へ葬った。木のもとは多くの虫や獣の墓場になった。時がたつと卒塔婆の字も見えなくなって、なかには折れたものもある。しかしそこは異界であり大事に手を合わす畏敬の場所になった。慈しみや死についての体験というカイニョが外から見えない景観の一つといえる。


【砺波散村地域研究所 『砺波平野の屋敷林』平成8年より抜粋】

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