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保存樹の保護管理 2014.12.25
1.はじめに

 樹木のある家は、都会に住む人達にとって実現できない夢になりつつ、多くの人達のあこがれとなり、我々の生活にとってかかせないものがある。

 しかし、樹木の植えられている場所は必ずしも生育に適した環境とは言えず、各種の病気や害虫が発生する場合も多い。常に樹木の周辺を清潔に保ち、日照や通風に配慮して健全な環境を保持し、予防を図っていくことが必要である。

2.樹木の衰退原因

(1)人為的障害
 樹木の衰退原因で、特に影響されやすいのが土壌の固結である。保存樹等の多くは人間と触れ合う場所に生育しており、根の先端部が踏み固められ、表土が固結状態となる。社寺境内では人の出入りが多く、表土は踏圧により壁状となり、透水性、通気性が不良となる。ケヤキ、イチョウ等は高木となるに伴い、露出根が多くなるため、露出部が傷つけられ腐朽の恐れがある。また、マツ類は焚き火跡地に「つちくらげ病」が発生し枯死するので、地際部での落葉の焼却を避ける。

 固結下表土を好転し、有機質肥料(バーク堆肥等)を混入するなど定期的な土壌改良を行なうとともに、出入りの制限や根元周辺の保護(踏圧板設置等)を行う。


(2)自然的障害
 保存樹等は単木的に開放された環境に生育しており、雪害、風害、落雷等の気象災害や地下水位変動の影響を受けやすく、樹勢衰退の原因となる。台風や雪で折損した枝を放置しておくと、幹に残された折れ枝のために癒合が困難となり、この部分から木材腐朽菌(サルノコシカケ科類)が侵入し、材質腐朽病が発生する。

 固結した土壌状態にある場合は、真夏の高温少雨が続くと、乾燥による被害を受けやすい。環境が急変した場合には、丈夫なケヤキでも被害を受け、特に湿潤で肥沃地を適地とするスギは、地下水位のていかによる乾燥に弱く、夏場の灌水による保護対策が必要である。コウヤマキ、カヤ等の陰樹は、真夏の強い日差しや西日により皮焼けを起こすことが多く、周囲に他の樹木による日陰が必要である。陽樹であるアカマツ、クロマツの枯損は、周囲の樹木の成長により日陰となる下枝の衰弱や排水不良となる湿害が原因となることが多い。

また、スギの高木が疎らに林立する神社、仏閣では時折落雷を受けることがあり、先端部が枯損したり、先端から根元まで幹が割裂し腐れが進行する。枯死枝、腐朽部の除去を行なうとともに、状況に応じて支柱による倒伏防止の対策も必要である。



(3)病害虫被害
 保存樹等(樹木・樹林・屋敷林・生け垣)の樹種は51種と多種に及んでおり、樹種に応じた病害虫が発生し、枯死または成長が阻害される。特に、単一樹種の生け垣等は発生しやすい傾向がある。これらの樹木に害を与える病害虫の種類も非常に多く、どのような病害虫であるかを知ることは極めて難しい。しかし、病気のかかった樹木に現れる症状(病微)や場所(部位)、害虫では樹木のどの部分を加害するかを判断すれば、大まかな病害虫のグループが判明し、適切な防除対策が可能である。

@スギ・ヒノキ類
スギは天然記念物として最も多く、巨樹・名木として残され、散居を囲む屋敷林においても“みどりの象徴”である。しかし、環境による変化を受けやすく、特にスギカミキリの被害は標高の低い肥沃地(田畑跡地)で多発する傾向にあり、材質腐朽病の原因となる。社寺林ではスギドクガ、庭園樹や生け垣ではスギのハダニの発生が頻繁にみられる。ヒノキは多雪地で漏脂病が発生しやすい。

Aマツ類
マツは古くから心のよりどころとして好まれ、用材としても広く利用されてきたが、欠点として病害虫に侵されやすく、絶えず注意が必要である。「マツ材線虫病」はマツ類で最も重要な病害虫であり、害虫では「マツカレハ」が多く発生する。クロマツには「赤斑葉枯病」、アカマツには「すす葉枯病」が発生しやすい。

Bサクラ・ウメ類
“サクラ切る馬鹿、ウメ切らぬ馬鹿”と言われるように、サクラは切り口から生立木腐朽病が入りやすく、他の広葉樹に比べて腐朽が進行しやすい。また、陽樹で日照を好むが、浅根性のため乾燥に弱く、強風、加湿地を避けることが必要である。サクラ・ウメ類の三大害虫として「コスカシバ、アメリカシロヒトリ、ウメシロカイガラムシ」が知られ、「オビカレハ(テンマクケムし)」、「マイマイガ」の被害も多い。病害としては「てんぐ巣病」やウメシロカイガラムシと共生関係にある「こうやく病」が発生しやすい。



Cカシ類
・常緑カシ類(ウラジロガシ、シラカシ、アラカシ、アカガシ、ウバメガシ等)
・落葉カシ類(コナラ、ミズナラ、クヌギ、アベマキ、クリ、カシワ等)

一般にテッポウムシと言われる「シロスジカミキリ」の幼虫は、樹皮下に食い入り材部を食害するため、加害部から腐朽菌が侵入し枯死を招くことが多い。森林の重要害虫の一つである「マイマイガ(ブランコケムシ)」は大発生した場合、葉を丸坊主にすることがある。また、寄生したアブラムシやカイガラムシの排泄物に繁殖する「すす病」が発生しやすく、樹勢を弱め鑑賞価値を低下させる。



Dケヤキ・ニレ・エノキ類
何れの樹種も害虫の種類が多く、特に「アカアシノミゾウムシ」は幼虫・成虫ともにケヤキの葉肉を網の目状に食害し、葉が季節外に変色するため、公害による変色と誤認される。県内でも公園、山林のケヤキにも加害し、森林よりも庭木に発生が多い。病害では早期落葉をおこす「褐斑病」が知られ、また、風害により折損した生枝や枯死枝から腐朽菌の侵入により、コフキサルノコシカケが発生したり、ヤドリギの寄生により枝が枯れ、台風による折損を招くため、被害枝を除去し防腐処理(トップジンMペースト塗布)対策が必要である。



Eビャクシン類(カイズカイブキ、ビャクシン、ネズミサシ)
果樹の重要病害となっている赤星病は、ビャクシン類の「さび病」により発生する。4〜5 月頃、ビャクシン等の葉や小枝の菌体(さび病原菌)が寒天状に膨らみ、この胞子が飛散し、中間寄生のナシ、リンゴ、ボケ等に感染し、赤星病の原因となる。このため、果樹が栽培される地区では、ビャクシン類の生け垣を避ける必要がある。


(4)生理的障害

 社寺林、公園等の人為的に管理される場所では、落葉が除去され人の出入りが多く、一般に地表を覆う植生が少ない。このため樹齢の経過に伴い、栄養分の欠乏と土壌の固結により、樹勢衰退を招く恐れがある。有機肥料の混入により、栄養分の供給と土壌尾膨潤化を図るなど土壌改良を行う必要がある。毎年、化成肥料を施すとともに、樹木の地際部には低木性のツツジ類の植え込みにより、土壌の固結化を防止する。また、ヤニの流出が旺盛なマツ、スギ類は傷害部がヤニにより防護され癒合しやすいが、サクラ類は傷口が乾燥ひび割れし、材質腐朽が進行する。


3.管理対策

 樹木には生理特性(暖帯性・温帯性)、生育特性(高木・低木)、環境特性(陽樹・陰樹、乾性・湿性、浅根性・深根性)があり、樹木の性質と生育に適した土壌条件の確保に努め、異変が生じた場合は下記の方法により対策を行う。

(1)土壌改良
通気性・透水性・栄養分の確保を図るため、土壌を耕転し、有機質肥料 バーク堆肥等)・化成肥料(NPK配合)を混入する。

(2)伝染源除去
中間寄生・宿主を分離させるため、病害が発生する組合せ樹種を除去する。

(3)薬剤防除
病原菌・害虫を除去するため、殺菌剤(マンネブ剤等)、殺虫剤(スミチオン剤・ディプテレックス剤等)、及び誘引剤を施用する。

(4)腐朽部除去(外科手術)
材質腐朽病の侵入、進行を防止するため腐朽部を除去し、殺菌・癒合促進剤(トップジンMペースト)の塗布及びウレタン塡充を行う。


四季ごとの生育の特徴、管理のポイントをつかんで手入れを行い、保存樹等の効果を最大限に発揮させて行くことが重要である。

【砺波市保存樹等指定委員会『散居のみどり−砺波市の保存樹− 』平成9年より抜粋】

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