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C−1家をつつむ屋敷林 2014.5.20
(1)屋敷林の成り立ち

冬の屋敷林

砺波地方では、散居の農家をつつむようにして生えている屋敷林のことをカイニョ」または「カイナ」といいます。

 カイニョといわれている屋敷林の歴史は、ここで人々が原野を切り開いて開拓を始めた頃にさかのぼることが出来るようです。人々が自分の住む家を風雨や吹雪から守り、冬の寒さをしのぎ、さらに夏の強い日差しを避けるためには、家の周りにある原生林を残す必要がありました。そこに住む人々が、その木々の中から必要な種類の木を残して、さらに新しい種類の木を家の周りに植えて大切に守り育ててきたのが屋敷林なのです。

 江戸時代にこの地方を治めていた加賀藩は「七木の制」といって、藩内にある山や林に生えている樹木を保護して無断で伐採する事を禁じていました。指定した木々は、能登や加賀、越中などの地域によって違っていました。1717(享保2)年の記録によると、砺波郡へ「杉、桐、樫、槻、松」と「檜、栗」の7種類の樹木を特に保護するように命じています。また、「百姓垣根七木」といって屋敷内にある木々も大切に守らせました。

 このように、江戸時代の記録では、屋敷に生える樹木のことを「垣根」と書かれていて、火除け、風除けにもなるから伐らないように言われていました。

 砺波地方では、古くから「高(土地)を売ってもカイニョ(屋敷林)を売るな」という言葉が伝えられています。これは、立派な屋敷林に囲まれて住むことを誇りにして、先祖代々からの屋敷林を大切に守り育てようという意味です。

(2)屋敷林にある木々

砺波平野の屋敷林は、スギが主体になっていますが、ほかにもいろんな種類の樹木があります。

 屋敷に生えている樹木は、高さ10メートル以上を高木、5〜10メートルを中木、5メートルほどを低木、1メートル以下の小低木というように、四つに区分することができます。この区分で砺波平野の屋敷林を調べてみると高木類には44種、中木類に76種、低木類に80種、そして、小低木類が153種もありました

 高木類ではスギが一番多く、ほとんどの屋敷で見ることができました。ついで、ケヤキ、アスナロ(アテ)、アカマツ、サワラ、カキ、クリ、カシ、エノキなどの木がありました。

 中木類には、スギ、カキ、カエデ、アカマツ、アスナロ、モチノキ、イトヒバ、シロダモ、カシ、クリ、ツバキ、エゴノキという木が多く、低木類には、ツバキ、カエデ、ヒサカキ、マサキ、サザンカ、ウメ、ツツジ、ウメモドキ、ガマズミなどがありました。

 小低木類には、園芸用の木が多く植えられていました。また、以前は、マダケ、モウソウチク、ハチク、ヤダケなどの竹林が多くありましたが、最近はほとんど見られなくなりました。

 このように砺波平野の屋敷林は、スギを中心にいろいろの種類の木で成り立っていることがわかります。

(3)屋敷のどこに生えているか

屋敷のどの方向にどんな木が生えているかを調べてみると、家の南側から西側にかけては、スギ、カシ、ケヤキなどの高木が多く、西側から北側には、スギ、エノキ、ハンノキなどにタケが混ざっていることが多いと分かりました。また、家の正面に当たる東側には屋敷林が少なく、花木やカキ、モモなどが植えられているのを多く見かけました。

 以前は、南側から西側にかけては、風を防ぐために中・低木類の樹木が多く植えてありました。最近もスギを中心とした屋敷林が多いことに変わりはありませんが、クロマツ、アカマツ、カシ、モチ、ラカンマキ、カエデなどの庭園向きの樹木を多く取り入れた家が増えています。

(4)屋敷林が果たした役割

スギを中心とした緑豊かな砺波平野の屋敷林は、人々の暮らしに大切な役割を果たしていました。それは、春先に吹く強い南風や冬の冷たい季節風を防いでくれました。また、防風林として吹雪や雨風から家を守ったり夏の強い日射しを遮ったりしてくれています。

 さらに、スギの小枝や落ち葉は、二階の「アマ」(屋根裏)などに蓄えられ、炊事の煮炊きやいろりで燃やされて冬の暖房にも使われていました。スギやアスナロなどは、家を建てるときの大切な材料になりました。また、農具や生活用具もこれらの木から作られました。

 モウソウチクなどのタケは、暴風に優れた効果があります。また、タケノコは食用になり、竹材は建築材料や堤防施設、桶の輪などの竹細工に利用されました。また、四季の果物が身を結ぶカキ、クリ、ウメ、ナシ、イチジク、グミ、屋敷林の下草であるフキ、ヨモギ、セリ、ミョウガ、ヨメナなどは、季節の食膳を賑わしてくれました。オオレン、ゲンノショウコ、ドクダミなどは、薬草として利用されてきました。

 春にはサクラやアンズの花が咲き、秋にはケヤキやモミジの紅葉に彩られる屋敷林の眺めは美しく、ウグイス、カッコウなど季節ごとに訪れる小鳥の声も耳にすることができ、住む人の安らぎの場となっています。

 屋敷林は、子どもたちのほどよい遊び場になりました。木登りやブランコ遊びかくれんぼやスギ玉鉄砲づくりという活動的な遊びはもちろんのこと、トンボ、チョウ、セミ、カブトムシなどの昆虫採集もできました。また、草むしり、落ち葉の始末や庭掃きは、子どもたちの重要な仕事でもありました。このようなことを通して、子どもたちは屋敷林から自然を学び、働くことの大切さを身に付けて育ったのです。

【砺波市立砺波散村地域研究所『砺波平野の散村「改訂版」』2001年より抜粋】

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