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9全国各地の屋敷林 2014.10.14
(1)簸川平野の「築地松」

築地松

 島根県簸川平野は斐伊川によって形成された沖積平野である。古い地区は塊村であるが、少し東の地区では列村や散村状況を呈している。その開拓の様子は、微高地を選び、「地形(じゅぎょう)」と称する地盛を施して敷地を造成し、さらに屋敷四方を浸水から守るために土手を築く「築地(ついじ)」も行われた。さらにそれをより強固に安定したものとするため樹木が植栽されてきた。その樹種はクロマツ、スダジイ、タブノキ、モチノキなどである。

 特に今日の景観を代表するクロマツは、痩せ地に堪え、根張りも旺盛で耐水性・耐乾性にも優れている。洪水の心配が少なくなった今は、主にこの地方に強い北西の季節風を防ぐため、主に家屋の北と西側に植えられ、それをきれいに刈り込んで生け垣のように仕立てている。これを「築地松」と読んでいる。

(2)胆沢扇状地の「エグネ」

岩手県北上川に注ぐ胆沢川が作った胆沢扇状地にも屋敷林のある散村景観が見られる。この地方の特色は、南向きの茅葺き屋根のホンヤ(母屋)に続いて、マヤ(馬屋)、便所などの建物が東西方向に1列に並び、その北と西側にスギを中心とした屋敷林が巡らされている。これを「エグネ」と呼んでいる。このエグネの下には「キズマ」と呼んでいる、薪を積んで塀状にしたものが置かれている場合が多い。さらに裕福な農家には、入り口に堂々とした長屋門を設けている。

 「エグネ」はこの地方の卓越風である冬の北西風に対する防風林としての性格が強い。その樹種はスギが最も多く、ほかにケヤキ、タケ、キリなどもみられ、クリ、カキなどの果樹も植えられている。

(3)大井川扇状地の屋敷林

静岡県の南部、大井川が作った扇状地にも屋敷林に囲まれた散村景観がみられる。現在では工場の進出や静岡・焼津市のベッドタウン化によって散村地帯は縮小しつつあるが、都市化された中にも屋敷林を持つ農家が点在している。

 この地域の大部分は、堤防工事の技術進歩により、大井川の流路が慶長9年(1604)の大洪水以降安定した後に開拓された。しかしその後も洪水に備えて自然堤防状に居を構えた。さらに屋敷地の廻りや耕地の上流部に土手を築いて、そこにタケやマツ、ヤマモモなどの常緑樹を植えた。これらはタケの地下茎や根によって土手の崩壊を防ぐためでもあったが、同時に冬の強い季節風や台風時の強風を防ぐのにも役立った。洪水の被害を最小限にとどめるため、この地域の屋敷構えは上流部に対して鋭角の三角形を作るので、「舟形屋敷」や「三角屋敷」と呼ばれる。


【砺波散村地域研究所 『砺波平野の屋敷林』平成8年より抜粋】

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