住み継ぐ もっと身近に散居村

 

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F−1これからの散村

2014.11.26

(1)文化遺産としての散村景観の保全

散村景観

散村景観

この冊子のそれぞれの箇所で述べてきたように、砺波平野に住み着いた人々は、水の豊かさと扇状地性平野の自然の特性を生かした住まい方を、長い年月をかけて作り上げてきました。どの農家も家の周りの水田を耕作できるように散在して家を建て、風雪から家を守るために宅地の周りに屋敷林をめぐらし、ここを核として自然との共生を図りながら、見事な生活のサイクルを形成して、今日見られる散村という居住形態を創り上げてきたのです。日本の稲作農村を代表する景観の砺波平野の散村は、この地域で長年にわたって生きてきた先人の知恵で守られ、伝えられてきた貴重な文化遺産といえます。

 平成17年に文化財保護法が改正され、その中に「文化的景観」という概念が導入されました。「文化的景観」とは、日本各地のそれぞれの土地で、風土に根ざして営まれてきた生活や生業の在り方を表す価値ある景観地のことです。砺波平野の散村はこの文化的景観にふさわしいものといえます。しかし、昨今、そこに生活する人々の暮らしや考え方の変遷に伴い、散村の姿も大きく変化しつつあります。その背景には散村成立の基盤であった稲作農業が大きく変貌したことがありますが、今後も変化を続けていくと予想されます。その中で散村景観を価値ある「文化的景観」としてどのように維持し、地域づくりにどのように位置づけるかが課題となっています。

(2)自然豊かな散村

砺波平野の散村の暮らしに大きな変化が見られたのは、昭和30年代の高度経済成長期以降のことです。動力耕耘機などの農業機械の導入を機に農家の兼業化が急激に進み、40年代には大型圃場整備事業の実施に伴う道路の設備、モーターリゼーションの進展や工場の進出によってさらに兼業化が進みました。やがて水田耕作を他に委託して農業をやめ、他に就労する農家が見られるようになり、「生産の場・居住の場」としての散村が、次第に「居住の場」としての散村に変わるようになりました。

 散居の生活には、春には屋敷林を訪れるウグイスの声に耳を傾け、夏には水田をわたってくる涼しい風があり、秋には庭の老木に色づく柿の実を楽しむという四季折々の趣きがあります。また、冬の冷たい北風や吹雪は屋敷林がさえぎってくれます。毎日の食卓にはおいしい米と前栽(せんざい)畑で作った安全で新鮮な野菜が並びます。子供たちは、自然豊かな屋敷林に囲まれた庭で遊び、草花や小動物と一緒に成長します。そして、なによりも一軒一軒離れた散村の家には、それぞれのプライバシーを大切にしあう素晴らしい住環境としての機能があり、生活環境として魅力的な面が多く備えられています。こんな散村の生活はコンクリートに囲まれた大都会の人々があこがれ、求め続ける住まいの姿ではないでしょうか。

 とはいえ、散村が現代に通じる魅力的な「住居の場」であり続けるためには、解決されなけれがならない様々な問題があります。

 まず、屋敷林の保全です。散村景観の象徴でもあり、緑の環境としても大切な屋敷林が年々減少しており、その保全育成は地域ぐるみで取り組むことが急務とされています。

もう一つは、豊かな水環境の再生です。昭和30年代までは、散村地帯を流れる多くの河川や用水にはフナ・ドジョウ・メダカなどが泳ぎ、アユやマスが遡上し、時にはサケも見られました。岸辺にはホタルが飛び交うなど、文字通り自然豊かな散村でした。扇状地の特性を生かし、時代に即応した水利用や自然の再生を図る水環境の整備が期待されます。

(3)水田景観の保持

砺波平野の散村地帯では耕地の水田率は100パーセントに近く、この水田景観が散村景観を構成する最も重要な要素です。昭和45年に米の生産調整が実施される以前は平野一面に毎年稲の作付が行われ、四季折々に変化する稲作農村の美しい景観が見られました。その後、生産調整が強化され、約3割の水田に大豆や麦などの転作作物が導入されました。今は平野全体の水田景観に若干のへんかが見られる程度に止まっていますが、今後さらに生産調整が強化されたり農家の後継者不足などで耕作放棄地が増えたりすると、水田景観が崩れることが危惧されます。現在集落営農の推進など農業の衰退を防ぐために様々な施策が実施されていますが、さらに散村の特徴を生かした幅広い対策が望まれます。


【砺波市立砺波散村地域研究所『砺波平野の散村「改訂版」』2001年より抜粋】