住み継ぐ もっと身近に散居村

 

関連タグのフォト

  • MORE

「『砺波平野の屋敷林』」の記事

  • 9全国各地の屋敷林
  •  島根県簸川平野は斐伊川によって形成された沖積平野である。古い地区は塊村であるが、少し東の地区では列村や散村状況を呈して…
  • 8これからの屋敷林
  •  これからの屋敷林をつくるのにふさわしい樹種を樹木の一般的な特性をふまえて整理すると次の通りである。 植える面積、方位、…
  • 7緑の効用
  •  スギ・ヒノキ等の森林にはいると、ほのかで、すがすがしい樹脂の匂いに包まれる。これは、常緑針葉樹のみではなく、落葉広葉樹…
    • MORE

6(3・4)屋敷林の現状

2014.10.10

(3)扇央部、鹿島集落の屋敷林

 砺波散村地域研究所では、昭和61年(1986)庄川扇央部の散居村、砺波市鹿島(かのしま)地区を選び、全戸の屋敷林内の植生調査を実施した(館明ほか)その時の鹿島地区全体の総樹木数は9092本、樹種124種であった。うち、目の高さで直径10センチ以上のものは1542本、83種であった。

その後、平成8年(1996)再び同地区を調査し、樹相の変化を調べた。この間、新規にどれだけ植えられたかにも焦点をあてて調べた。この間、新規にどれだけ植えられたかにも焦点をあてて調べた。新たな植え付けは果樹を中心に見られた。しかし、全体としては減少傾向にあった。また、伐採された理由は、「家の建て替え」「車庫・作業場・農機具庫の新築」「台風で倒木」「スギ枯れの発生」などが目立った。

(4)近年のスギ枯れ
枝打ちされたスギ

枝打ちされたスギ

1 砺波平野のスギ枯れについての過去の調査記録や資料はない。しかし、古老の話では昔も時々スギの先枯れが発生した。それを見つけると「不吉」といって、即、枯死部分を切り落とし、燃料として使ったという。しかし、枯死樹木の位置や範囲、その原因の解明となる資料はない。

 一般的に屋敷林の古木は、樹高20メートル余りで全て樹冠は丸くなり、成長がおさえられている。これは時々発生する先枯れが原因と推定できる。


2 スギ枯れ死現象の考察
@庄川扇状地の水とスギ枯れ死現象調査(昭和49年 泉治夫)
 庄川本流を中心にスギ枯れ発生の状況を調査した。扇頂に近い庄川町北部、扇央部の砺波市全域、扇端部に位置する高岡市南部のスギ枯れ、特に先枯れの多発に注目した。発生理由として、地下水位低下をあげ、特に戸出から下流域では地下水位の低下から湧水がなくなったことに注目している。

A砺波平野扇央部に発生したスギ枯れ現象(昭和60年 柏樹直樹)
 昭和60年4月から5月にかけてスギの先枯れが目立った。特に砺波市南部から西部、福野町東部庄川町東部、井波町で多発した。枯死の原因は、断定しかねるが、前年夏の長期高温と乾燥に加え翌年4月の晴天続きで樹冠上部への水供給に異常が起きたものと推定している。各戸の最高木樹1〜2本のみに集中しているのも特徴的であった。

B砺波平野のスギ先枯れ状況(平成8年調査 砺波散村地域研究所)
 調査地域は、庄川町、井波町、井口村、城端町、福光町、砺波市、小矢部市(南東部)、高岡市(南部)に及ぶ砺波平野の全域とし、悉皆(しっかい)調査を行った。スギ先枯れ(先端1〜3メートル)の枯死木と全枯死木を地図に記した。その結果、全域で枯死の現象の発生があり、これは過去にみられなかったことと推察される。先枯れの著しい地域は、砺波市北部から西部と、福光町南部であった。発生割合が少なかったのは、福野町北部から西部、井口村、城端町東部から北部であった。枯死発生比率は調査全戸の5%で、発生件数は596戸であった。

C砺波市狐島地区の屋敷林枯れ定点調査(平成8年 砺波散村地域研究所)
 砺波市狐島地区87戸の屋敷林のスギを中心とした高木層(10メートル以上)の枯死状況を定点観測していくことにした。

 平成8年の当地区の枯死発生戸数は80%と極めて多い。その発生は各戸の樹高上位木の1〜2本に集中している。また、若齢木(20年以下)で全枯れが目立ったが食害口からスギカミキリによるものと判断された。

D福野町南部から福野町北東部のスギ先枯れ発生(平成10年調査 柏木直樹)
 平成10年4月から5月のスギ先枯れは福野町南部から旅川をはさんだその左岸の福光町北東部に発生した。スギ高木の先枯れでは過去に他地域にはっせいした形と類似していた。周辺環境を検討したが特別の違いはなかった。富山大学で枯死部とその直下1メートルの樹幹をっ採取し、内部の成分調査を実施した。


3スギ枯死の特徴と原因
 スギの「先端枯れ」や「全木枯れ」が樹齢に関係なく砺波平野の全域で発生している。年によって地域性をもって集団的にはっせいする傾向にある。また、「先端枯れ」は各戸の最高木のみに発生していることが特徴的である。その原因解明はなされていない。枯損発生として葉が赤色なのは、4月〜6月上旬であり、春のフェーン現象を経過した時点で症状がみられる。全木枯損の原因には「食害 若い木の全枯死」「乾燥 集団枯死」「強度な枝おろし」が主因として推察される。

 一方、先枯れの原因は、いろいろな要因の複合や生理現象との合併症ではとの推察もあるが、今のところ不明という状況にある。いずれにせよ、スギは先端の枯死部分を伐り落としておくと、その下枝から主幹が立ち上がり成長を続ける傾向にあることを忘れてはいけない。


【砺波散村地域研究所 『砺波平野の屋敷林』平成8年より抜粋】